訳書が刊行されました
- 心理臨床オフィス ポーポ
- 3月14日
- 読了時間: 4分

3/13に、訳書が刊行されました。ゲリー・L・ランドレス著『プレイセラピー 関係性の営み 原著第4版』(日本評論社)、大学院時代の研究会仲間との共訳です。タイトルになっている“プレイセラピー”とは主に子どもを対象とした遊びによる心理療法のこと。
今回出版されたのは、2007年に同じく日本評論社から出された『プレイセラピー 関係性の営み』、その改訂版である2014年の『[新版]プレイセラピー 関係性の営み』のさらなる改訂版です。著者・ランドレスが考えるプレイセラピーのエッセンスが詰まっている点では旧版2冊と変わりはありませんが、最新の研究成果が反映されているのと、プレイセラピーにおいて文化的多様性をどう考えるか、という点が盛り込まれているところが今回の大きな変更点です。
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私が担当したのは第1章「私、ゲリー・ランドレスについて」と第10章「プレイルームとプレイ道具」。第1章はランドレスの来歴が簡潔に示されますが、子どもたちとの出会いによって自らの感受性が開発されたこと、それによってあらゆるクライエントとのセラピーの展開が促進される体験をしたこと、それがランドレスにとってのプレイセラピーの指針となっていることがよくわかる面白い章です。
第10章は、タイトル通り、プレイセラピーにおいてどのようにプレイルームを設え、そこに何を置くのが適切であるのか、かなり具体的に提示されます。他の章に比べるとマニュアルチックに見えますが、実際に自分がここに書いてあることを実践しようとするとなかなか難しいことが分かります。例えば、プレイルームに推奨される玩具の一覧が載っているのですが、この中に「ローンレンジャーのマスク」というものがあります。これを読んで、なるほどじゃあローンレンジャーのマスクを買いましょう、ということでよいでしょうか。答えはもちろんノーです。ランドレスが出会うアメリカ(テキサス)の子どもにとってのローンレンジャーは、私が出会う日本(大阪・近畿)の子どもにとっては何であるか、ということを考えなくてはなりません。みなさんにも考えていただきたいのですが、これがけっこう難しいのです。

ローンレンジャーは西部劇に題を取ったドラマ・アニメ・映画のシリーズであり、1933年に放送されたラジオドラマが最初だといいます。アニメは日本でも複数回テレビ放映されており、「ハイヨー、シルバー!」「キモサベ」などの決め台詞は聞いたことがある方もいるかもしれません。(私自身は、90年代の「衛星アニメ劇場」で見ていたような記憶があります。)それから、少し前にはアーミー・ハマーとジョニー・デップが出ていた映画もありました。
これを踏まえてセラピーの方へ歩を進めると、ローンレンジャー(に値するもの)をプレイルームに置くことで、子どもの何にどう働きかけようとしているのか、ということを考える必要が出てきます。ローンレンジャーを含む西部劇は、現代的な視点から見れば様々な批判もできうるかもしれません。しかし、西部劇がアメリカ的精神の一つの現われであり、アメリカの子どもたちの憧れや正義感、冒険心とセンチメンタリズムを世代を超えて支えてきたこと自体は否定できないように思います。
(ちなみに、日本で放映されたアニメ版のローンレンジャーには、「インディアン嘘つかない」という、人口に膾炙したけれども今は書くのに戸惑いを覚える有名なセリフもあります。滑稽な言い回しは日本語吹き替えによるものであり、原語であるHonest Injunにはカタコトであるニュアンスはないようで、アメリカで制作されたアニメにおけるステレオタイプ的なネイティブ・アメリカン像が、さらに日本に輸入されて日本におけるステレオタイプが定着することになったという複雑な背景があるようです。)
ということは、ローンレンジャーは現代日本でいうと何に当たるの??我々は、プレイルームに何のマスクを用意すればよいの??――こういったことをひとつひとつ考えていくことが、プレイセラピーという営みの本質を考えることになるのが面白いところです。
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先日、私のところにも完成した本を送っていただきましたが、こうして本を手にとって思い出すのは、初版が刊行された後、ランドレス先生の元を訪れたときのこと。ノーステキサス大学のプレイセラピーセンターなどを見学し、先生とお話しもしました。どんな人の中にも可能性を見出し、それを信頼するというのが先生のセラピーにおける基本的な信念だと思うのですが、それを自然に(ここが大事!)体現しておられる先生の存在が、今も忘れがたく記憶に残っています。
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このようなわけで、初めてご覧になる方はもちろん、初版や新版をすでに読まれた方にも、触れていただきたい本となりました。ランドレスが関わっている本は、他にも『子どもと親の関係性セラピー(CPRT) 10セッションフィリアルセラピーモデル』『子どもと親の関係性セラピー(CPRT)治療マニュアル 親のための10セッションフィリアルセラピーモデル』などが出ております。ご興味があれば、そちらも是非どうぞ。
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