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大衆芸能(ポップカルチャー)としての歌舞伎の死――御名残五月大歌舞伎と大阪松竹座の閉館

 大阪松竹座へ御名残五月大歌舞伎を見に行きました。昼の部と夜の部と一回ずつ。


 ご存じの方も多いかと思いますが、大阪松竹座は5月26日をもって閉館となりました。その名残惜しさをこめた演目。


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 私は歌舞伎には疎く、どちらかというと敬して遠ざけていたところがあったのですが、実際に見て、「なにこれすごい面白いじゃん!早く教えてよ!!」と言いたくなるような、大変楽しい体験でした。


 演目は昼の部も夜の部も、時代物・世話物・所作事の3つ。時代物はサーカスのような派手な演出や身体能力に驚き、世話物では腹を抱えて笑い、所作事の美しさに見入る。『心中月夜星野屋』では舞台装置の美しさ第二幕の宵闇の橋!)にも本当に感じ入りました。


 江戸の浮世絵(役者絵)の機能もよくわかって、私も思わずブロマイドを買って帰りました。見るたびに蘇る歌舞伎体験。


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 ところで、実際に歌舞伎を見に行ってわかったことがありました。松竹座の客、とにかくよく喋る!役者が出る度、家族関係を事細かに喋り、足拍子を鳴らせば「キレッキレや!」と大喜び。所作事では一緒に手を振る。ギャグのオチを先に言うこともあって、そこまで来ると、まあ、うーん……。


 もちろん現代の上演ですから、喋らないこと・携帯を鳴らさない(電源を切る)ことなど事前に客席を回っての注意があるのですが、大阪のお客さんにはそんなの関係ない、という感じ。塚口サンサン劇場の応援上映やないんやから、といった風情です。私も最初はイライラとしたのですが、次第に、これこそが江戸の歌舞伎鑑賞ではないかと思えてきて……。


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 私は映画でも舞台でも静かに没入したい方なのですが、この“没入”は他者から切り離され、自分の内界に潜っていく感覚であるように思います。圧倒的な「個」の体験。


 一方、舞台を見ながらあれこれおしゃべりするというのは、「個」が薄く、主観がふわふわとみんなの間に形成されるような、主体や主観が未分化な世界。 


 江戸時代には現代のような「個」の優先というのはあまりなかったはずですから、歌舞伎鑑賞も今のようにおしゃべり厳禁で内にこもる世界ではなく、喋ったり笑ったり泣いたり、アウトプットの豊かな世界(インとアウトが曖昧だった世界)だったのではないかと。


 大阪松竹座の閉館は、歌舞伎を支えるだけの経済的な基盤が失われたことの象徴のように捉えていましたが、それだけではなくて、大阪では保存され続けてきた、前近代的な共同主観・共同主体のようなものがとどめを刺されてしまったということでもあるのかと考えました。


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 こうして令和にようやく江戸時代は死んだ。江戸のポップカルチャーも死んだ。でも別にフランス革命も来ない。


<参考図書>

橋本治(1990)『江戸にフランス革命を!』青土社

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