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足の裏から立ち上るもの――斎藤美奈子『旅する文学』と連載完結記念動画
文芸評論家の斎藤美奈子が月1回、朝日新聞の紙面に書き続けていた連載が完結した。「旅する文学」というのがそれで、47都道府県にちなんだ文学作品をいくつかセットにして、土地の空気から文学を歩き直し、その土地の文学からあらためて土地の文化を読み直そうという試み。2026年8月3日現在、朝日新聞が運営する本の情報サイト「好書好日」で読めるようになっている。 連載本文ももちろんいいのだが、この完結を記念して行われたトークイベントの模様が動画で公開されていて、これがめっぽう楽しい。 文学というのは、足の裏の感覚から立ち上るものを掴まえる行為だということがよく分かる。それに、都道府県ごとという括りがあれば、ヒット作もそうでないものもみな同じ土俵。切り口を変えることが偏見や固定観念を外し、自由な態度を与えてくれるということが、斎藤美奈子の快活でさっぱりした(でも嫌でない)語り口によってどんどん提示される。 *** 視聴してやたらに元気が出ました。サムネは「300冊の読書術」と扇情的な感じもありますが、内容はこれから連想されるような“スキル重視”のものではあ

心理臨床オフィス ポーポ
8月3日読了時間: 1分


読書メモ:ヴァイツゼッカー(1940/1975)『ゲシュタルトクライス』(木村敏・濱中淑彦共訳)みすず書房
ヴィクトーア・フォン・ヴァイツゼッカー著『ゲシュタルトクライス』を久しぶりに通読した。私が持っているのは画像1枚目のもので、大学院生の頃に買った2004年の新装版第3刷。今はさらに新装されたバージョンが出ていて、こちらの表紙の方は、本文中の図がデザインされていて、内容がひと目で掴めるようになっている(画像2枚目)。また、書籍や版によって名前の表記に揺れがあるが、今回は私がいちばん馴染んでいる(ヴィクトーア・フォン・)ヴァイツゼッカーとしている。 *** ここで論じられている「ゲシュタルトクライス」とは、認知作用の円環のことで、力学的な働きかけはそれが向かう先からのフィードバックによる影響を受けるし、その影響がさらに働きかけに作用する、というもの。馬が走り方を常歩・速足・駈歩・ギャロップと変えていく様子を想像すると、ヴァイツゼッカーが言わんとするところがわかりやすい。 この理論は、現代の認知心理学で言う「アフォーダンス」の先駆けとも言われていて、これを計測というよりも思考の中から生み出しているのが面白い。 *** (認知心理学者ではなく)臨床

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8月1日読了時間: 2分


読書メモ:ファビエンヌ・ブルジェール(2013/2014)『ケアの倫理 ネオリベラリズムへの反論』(原山哲・山下りえ子訳)白水社文庫クセジュ
西見奈子『フロイトの灯』の副読本として、ファビエンヌ・ブルジェール(2013/2014)『ケアの倫理 ネオリベラリズムへの反論』(原山哲・山下りえ子訳)を読んだ。近年盛んに論じられて出版されている「ケアの倫理」に関する書籍の一つ。4月に行った神保町ブックフェスティバルの白水社のブースで購入して、積ん読になっていたもの。 *** 著者の主張は比較的シンプルで、合理的・個人主義的な道徳と、関係性・気づかい・社会的絆によって生成される倫理とを対置させ、ケアとはまさに倫理の問題であり、伝統的にケアは女性のものとされてきたことを指摘することで、逆説的にこれを女性だけのものであることから解放することを狙うものである。 「心づかいとは、弱い人間が言葉を話すようになり、依存しない状態になれる可能性に関心をもつことだ。しかし、弱い人間は、自分になされる配慮にどう応えるかは自由である。」(p.100)というのが著者の主張のコアであると思ったし、心理臨床のコアでもあると思うが、依存と自律の複雑な関係は一筋縄ではいかないことは、臨床実践を行う者ならばみな実感するところ

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7月13日読了時間: 3分


読書メモ:芝田征司(2017)『数学が苦手でもわかる心理統計法入門』
大学の仕事もしているので、「数学の心得があまりないまま大学に入り、心理学研究法や心理統計法の授業を受けたものの、自分でデータを一から処理するのは初めてで心細く……」という人が、データから見たいものを抽出できるようになるような、勘所を掴めるような統計学の本について、時間を見つけては探している。 それほどたくさん見たわけではないけれど、この本は、要点を押さえながら読めていいかもしれない。 『Excelで今すぐはじめる心理統計 第2版 簡単ツールHADで基本を身につける』などと組み合わせると、一年掛けて心理学の卒論を書くところまではたどり着けるだろうと思った。 <参考文献> 芝田征司(2017)『数学が苦手でもわかる心理統計法』サイエンス社 小宮あすか・布井雅人(2024)『Excelで今すぐはじめる心理統計 第2版 簡単ツールHADで基本を身につける』講談社

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7月4日読了時間: 1分


読書メモ:ブランケンブルク(1971/1978)『自明性の喪失――分裂病の現象学』(木村敏・岡本進・島弘嗣共訳)みすず書房
破瓜型(解体型)統合失調症の本態は、自分にも他者にも生命にもこの世界にも親しみを持ちにくいこととし、これを「(自然な)自明性の喪失」と名付けたブランケンブルクの書。今回、たまたま必要があって読んだのだが、院生時代以来なので20年ぶりぐらいか。あの頃よりは面白く読めた気がする。 *** アンネ・ラウという20歳の女性の症例から、統合失調症における「自明性の喪失」がどのようなものであるのかを多面的に分析する。 自明性を失うと生命に親しめ「ない」、他者との間が「ない」ゆえ間主観性が成立し「ない」、したがってコモン・センスが成り立た「ない」、というように、否定の形でしか存在を記せないのが自明性であり、経験論的にも超越論的にも”自分”を支えるようなものである。 大きなものに根ざしつつ自分を分けて析出していくという点では、木村敏の存在構造論はもちろんだが、河合隼雄が『心理療法序説』において心理療法の一つの極みとして仄めかした自然(じねん)モデルを想起させるところがある。「コモン・センス」論としては中村雄二郎『共通感覚論』なども思い出す。そして、國分

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6月26日読了時間: 2分


読書メモ:野間俊一(2012)『身体の時間——<今>を生きるための精神病理学』筑摩書房
うつ病、解離、ASD、摂食障害、自傷の症状のあり方の時代的変遷から、現代の時代精神を「コントラ・フェストゥム」として取り出す。 「コントラ・フェストゥム」とは、精神科医・木村敏の「ポスト・フェストゥム」「アンテ・フェストゥム」「イントラ・フェストゥム」から着想されたもの。これらは生命の祝祭性と、それとの関係の取り方によって人間の存在構造を分類したもので、それぞれ、完了態の中に生きる様式、未決の可能態に生きる様式、生命の噴出そのものに生きる様式である。このうち「イントラ・フェストゥム」は量的なものであるので、対極にある生命から疎隔された状態を措定することができる。これを野間は「コントラ・フェストゥム」と名付け、現代人の特徴であるとする。 *** ここで面白いのはトラウマにおけるフラッシュバックの取り扱い方で、これはもちろん主観的体験としては苦しいものであるのだが、コントロールしようとすると「コントラ」となって余計に反逆される。そうではなくて、「イントラ・フェストゥム」の現れであると捉えることで、受動から能動へと転じる主体発現の契機ともしうると主

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6月20日読了時間: 2分


それは幻ではない――西見奈子『フロイトの灯 現代精神分析入門』
精神分析家によるフロイト理論の解説書。優しく丁寧だが足腰の強さを感じさせる語り口で、読むうちに段々と地響きのような蝉の声のような、姿なき者の声のようなものがズーンと響き、次第に大きくなってくる気がした。気のせいかと思ったが、それは気のせいではないことが終盤にさしかかるにつれ分かってくる。 *** 本書では、フロイトのヒステリー理論について、それがトラウマ(実際に生じた外傷体験)によるものであるとした初期理論(「誘惑理論」)とその放棄について語る。ヒステリー症状は女性が外傷体験を負ったから生じるのではなく、外傷体験を負ったことにして症状を出し心身を守ることを無意識が選んだのではないか、という理論的転換である。 その上で、誘惑理論を放棄したからこそ作り上げることのできたエディプスコンプレックスという考え方について論じられていくが、そこに一本通っているのは人間にとって性愛とは何か、という視点である。 *** 精神分析の性愛理論はあるところから急に受け付けなくなるところが私にはあって、エディプスコンプレックスについても、子による母親への愛と父親への

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6月18日読了時間: 5分


読書メモ:ウィニコット(1965/2022)『成熟過程と促進的環境』(大矢泰士訳)岩崎学術出版社
対象関係論のメラニー・クラインの後継者でありながら、それにとどまらず自らの理論を展開させていったウィニコットの論文集。「偽りの自己・本当の自己」「一人でいられる能力」などウィニコットの代表的理論を知ることができ、子どもの心理臨床を学ぶうえでは『遊ぶことと現実』等とともに必読であると思われます。 *** クラインとともに乳幼児期の心的発達の重要性を説いたものの、クラインほどには内界のファンタジーに依らず、タイトルにあるように「促進的環境」を重視したウィニコット。養育者に依存しながら漸進的に心理的自立が進むとウィニコットは考えますが、本書の白眉は以下の点にあると読みました。 イド衝動が有意義になるのは、それが自我生活の中に包容(コンテイン)されるときだけである、という点については一般的に同意を得られると思う。イド衝動は、弱い自我を混乱させ、強い自我を強化する。イド-関係は、自我-関係性の枠組みのなかでおこるとき、自我を強化する、と言える。もしこのことを受け容れるなら、一人でいられる能力の重要性も理解されるはずである。乳幼児が彼自身のパーソナルな生

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6月15日読了時間: 3分


2026年が明けました
2026年が始まりました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。 *** 本日より、通常通り開室しております。休室の間にいただきましたお問い合わせにつきましては、順次ご返答いたしております。 *** 今年の初読了は、 北村紗衣・著『「名作」と友達になる 学校では教えてくれないシェイクスピア』(朝日出版社) 。男子高校生が、シェイクスピア研究者にしてフェミニスト批評家の集中講義を受ける!最後は高校生がシェイクスピア作品を批評するところまでたどり着きます。 映画初観了は溝口健二・監督『残菊物語』。個人が主体となるのに“家(イエ)”がどのように作用するのか。近代的な主体性を持った女性が男性とソウルメイト的バディになるとはどのようなことか。狙って観たわけではないのですが、実は上記のシェイクスピア本と似たようなテーマ性を持っているのではと思いながら鑑賞しました。 *** どうか良い年となりますように。

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1月5日読了時間: 1分


訳書が刊行されました
3/13に、訳書が刊行されました。 ゲリー・L・ランドレス著『プレイセラピー 関係性の営み 原著第4版』(日本評論社) 、大学院時代の研究会仲間との共訳です。タイトルになっている“プレイセラピー”とは主に子どもを対象とした遊びによる心理療法のこと。...

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2025年3月14日読了時間: 4分


人の奥底にある温かいものへの信頼――映画『スクール・オブ・ロック』(ネタバレあり)
映画『スクール・オブ・ロック』を見ました。公開当時に見て以来ですので、およそ20年ぶりの鑑賞でしょうか。有名作品ですので、ご覧になった方も多いかと思います。とにかく楽しくて元気が出る映画、という記憶でしたが、果たしてそれはその通りでした。...

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2025年2月8日読了時間: 3分


夏顔と冬顔
夏と冬をまたいで 多肉植物・エケベリアは冬と夏とでは表情が変わって、これを「夏顔」「冬顔」と呼ぶこともあるそうです。 この写真で言うと、外側の方の長くてツヤツヤしている葉が夏に進展したもの、中央に近い毛が生えて立っている葉が10月以降にに育ったものです。秋から冬に育った...

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2024年12月23日読了時間: 1分


「おもしろいからだと答える」
当オフィスで提供している心理療法の形態として、描画療法というものがあります。文字通り、絵を描くことによって心を癒やす方法です。何を描くのか、どのように描くのかは様々であり、描く人の必然性に応じて、それぞれの方法にたどり着くものです。 ***...

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2024年10月21日読了時間: 3分


小さな定住革命――雑草は抜かれなくてはいけないの?
このところ私が心奪われている、当オフィス卓上のエケベリアの鉢ですが、脇からなにかの草が生えてきました。この土は、植わっていた木が枯れたのでベランダに放置していた鉢から拝借したもの。ベランダに置いている間に、どこかから種が紛れ込んだのでしょうか。...

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2024年7月12日読了時間: 2分


育てたような気持ち
以前記事にしたエケベリア、順調に成長しています。葉の上に光るのは雨露。葉の層が重なっていき、いくら見ても見飽きません。根がたくさん張って鉢が狭くなったようでしたので、深い鉢に植え替えました。 なお、本記事タイトルは、敬愛する現代詩作家・荒川洋治の著作『読んだような気持ち』へ...

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2024年6月28日読了時間: 1分


満開宣言もしくは“ようやく人間”宣言
すっかり春ですね。日中は春を通り越したかのような気温です。 *** 当オフィスホームページ内「ポーポについて」に、著書・訳書に関して記載しました。これまで、自著についてはどこか気恥ずかしさがあり積極的には公表していませんでした。しかし、内容については未熟なところが多くあるも...

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2024年4月12日読了時間: 1分


我々は他ならぬ私-たちである
心の中を覗いたり、耕したりする方法の一つに、風景構成法と呼ばれるものがあります。このブログでも、何度か紹介したことがあります。 記事:カメラロールを眺めてみよう 記事:消えるものは消えるのか *** この風景構成法に関する本が誠信書房より出版されまして、私も一章、執筆しまし...

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2023年10月28日読了時間: 1分


mobilityの獲得と「私」の自由-須賀敦子『ユルスナールの靴』について
きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ。そう心のどこかで思いつづけ、完璧な靴に出会わなかった不幸をかこちながら、私はこれまで生きてきたような気がする。 須賀敦子の著作『ユルスナールの靴』はこのような印象的な文章から始まる。ユルスナールとはベルギ...

心理臨床オフィス ポーポ
2021年9月13日読了時間: 3分


「人の心などわかるはずがない」
思うところあって、河合隼雄『こころの処方箋』(新潮文庫)を読み返していました。 河合隼雄と言えば日本における臨床心理学の泰斗、臨床実践や大学での指導の一方、旺盛な執筆活動や講演を行って、本邦にカウンセリング(心理療法)を根付かせた立役者の一人と言えます。...

心理臨床オフィス ポーポ
2021年8月18日読了時間: 5分


夢分析について
当オフィスでお引き受けできることの一つとして、「夢分析」というものを挙げています。ここでいう「夢」とは、寝ている間に見る、あの「夢」のことです。 心理療法において夢を取り扱うということについては、馴染みがある方とそうでない方がおられるのではないかと思います。 ***...

心理臨床オフィス ポーポ
2021年8月7日読了時間: 5分
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