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強迫という鎧とその破綻――映画『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』
1975年公開の映画『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(監督:シャンタル・アケルマン)を見ました。 主演俳優であるデルフィーヌ・セリッグが監督した作品『美しく、黙りなさい』が現在、国内で初めて上映されていて、その関連作品として再上映されているものです。 (『美しく、黙りなさい』もまた重要な作品なのですが、それはまたいつか項を分けて。) *** 息子と暮らす一人の寡婦の3日間を描いた作品。 アラームと玄関の呼び鈴を合図に、曜日ごとの動き方を決め機械のように日々を回していく主人公ジャンヌ。ところが、何ミリかずつそのルーティンがほころび始め、とうとうある重大な出来事が発生する……というストーリー。家事をする姿が据え置きのカメラで捉えられ、ジャンヌの手際を見ていれば(最初は)退屈しません。また、あれ?と思う出だしと、少しずつ訪れる破調の予感とが、見ることを止められない要因の一つになっています。とはいえ、見終わると、ぐったりと疲れている。 *** 主婦とはいかに抑圧されたものか……ということを198分

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8月5日読了時間: 4分


読書メモ:ヴァイツゼッカー(1940/1975)『ゲシュタルトクライス』(木村敏・濱中淑彦共訳)みすず書房
ヴィクトーア・フォン・ヴァイツゼッカー著『ゲシュタルトクライス』を久しぶりに通読した。私が持っているのは画像1枚目のもので、大学院生の頃に買った2004年の新装版第3刷。今はさらに新装されたバージョンが出ていて、こちらの表紙の方は、本文中の図がデザインされていて、内容がひと目で掴めるようになっている(画像2枚目)。また、書籍や版によって名前の表記に揺れがあるが、今回は私がいちばん馴染んでいる(ヴィクトーア・フォン・)ヴァイツゼッカーとしている。 *** ここで論じられている「ゲシュタルトクライス」とは、認知作用の円環のことで、力学的な働きかけはそれが向かう先からのフィードバックによる影響を受けるし、その影響がさらに働きかけに作用する、というもの。馬が走り方を常歩・速足・駈歩・ギャロップと変えていく様子を想像すると、ヴァイツゼッカーが言わんとするところがわかりやすい。 この理論は、現代の認知心理学で言う「アフォーダンス」の先駆けとも言われていて、これを計測というよりも思考の中から生み出しているのが面白い。 *** (認知心理学者ではなく)臨床

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8月1日読了時間: 2分


読書メモ:ファビエンヌ・ブルジェール(2013/2014)『ケアの倫理 ネオリベラリズムへの反論』(原山哲・山下りえ子訳)白水社文庫クセジュ
西見奈子『フロイトの灯』の副読本として、ファビエンヌ・ブルジェール(2013/2014)『ケアの倫理 ネオリベラリズムへの反論』(原山哲・山下りえ子訳)を読んだ。近年盛んに論じられて出版されている「ケアの倫理」に関する書籍の一つ。4月に行った神保町ブックフェスティバルの白水社のブースで購入して、積ん読になっていたもの。 *** 著者の主張は比較的シンプルで、合理的・個人主義的な道徳と、関係性・気づかい・社会的絆によって生成される倫理とを対置させ、ケアとはまさに倫理の問題であり、伝統的にケアは女性のものとされてきたことを指摘することで、逆説的にこれを女性だけのものであることから解放することを狙うものである。 「心づかいとは、弱い人間が言葉を話すようになり、依存しない状態になれる可能性に関心をもつことだ。しかし、弱い人間は、自分になされる配慮にどう応えるかは自由である。」(p.100)というのが著者の主張のコアであると思ったし、心理臨床のコアでもあると思うが、依存と自律の複雑な関係は一筋縄ではいかないことは、臨床実践を行う者ならばみな実感するところ

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7月13日読了時間: 3分


読書メモ:芝田征司(2017)『数学が苦手でもわかる心理統計法入門』
大学の仕事もしているので、「数学の心得があまりないまま大学に入り、心理学研究法や心理統計法の授業を受けたものの、自分でデータを一から処理するのは初めてで心細く……」という人が、データから見たいものを抽出できるようになるような、勘所を掴めるような統計学の本について、時間を見つけては探している。 それほどたくさん見たわけではないけれど、この本は、要点を押さえながら読めていいかもしれない。 『Excelで今すぐはじめる心理統計 第2版 簡単ツールHADで基本を身につける』などと組み合わせると、一年掛けて心理学の卒論を書くところまではたどり着けるだろうと思った。 <参考文献> 芝田征司(2017)『数学が苦手でもわかる心理統計法』サイエンス社 小宮あすか・布井雅人(2024)『Excelで今すぐはじめる心理統計 第2版 簡単ツールHADで基本を身につける』講談社

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7月4日読了時間: 1分


読書メモ:ブランケンブルク(1971/1978)『自明性の喪失――分裂病の現象学』(木村敏・岡本進・島弘嗣共訳)みすず書房
破瓜型(解体型)統合失調症の本態は、自分にも他者にも生命にもこの世界にも親しみを持ちにくいこととし、これを「(自然な)自明性の喪失」と名付けたブランケンブルクの書。今回、たまたま必要があって読んだのだが、院生時代以来なので20年ぶりぐらいか。あの頃よりは面白く読めた気がする。 *** アンネ・ラウという20歳の女性の症例から、統合失調症における「自明性の喪失」がどのようなものであるのかを多面的に分析する。 自明性を失うと生命に親しめ「ない」、他者との間が「ない」ゆえ間主観性が成立し「ない」、したがってコモン・センスが成り立た「ない」、というように、否定の形でしか存在を記せないのが自明性であり、経験論的にも超越論的にも”自分”を支えるようなものである。 大きなものに根ざしつつ自分を分けて析出していくという点では、木村敏の存在構造論はもちろんだが、河合隼雄が『心理療法序説』において心理療法の一つの極みとして仄めかした自然(じねん)モデルを想起させるところがある。「コモン・センス」論としては中村雄二郎『共通感覚論』なども思い出す。そして、國分

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6月26日読了時間: 2分


読書メモ:野間俊一(2012)『身体の時間——<今>を生きるための精神病理学』筑摩書房
うつ病、解離、ASD、摂食障害、自傷の症状のあり方の時代的変遷から、現代の時代精神を「コントラ・フェストゥム」として取り出す。 「コントラ・フェストゥム」とは、精神科医・木村敏の「ポスト・フェストゥム」「アンテ・フェストゥム」「イントラ・フェストゥム」から着想されたもの。これらは生命の祝祭性と、それとの関係の取り方によって人間の存在構造を分類したもので、それぞれ、完了態の中に生きる様式、未決の可能態に生きる様式、生命の噴出そのものに生きる様式である。このうち「イントラ・フェストゥム」は量的なものであるので、対極にある生命から疎隔された状態を措定することができる。これを野間は「コントラ・フェストゥム」と名付け、現代人の特徴であるとする。 *** ここで面白いのはトラウマにおけるフラッシュバックの取り扱い方で、これはもちろん主観的体験としては苦しいものであるのだが、コントロールしようとすると「コントラ」となって余計に反逆される。そうではなくて、「イントラ・フェストゥム」の現れであると捉えることで、受動から能動へと転じる主体発現の契機ともしうると主

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6月20日読了時間: 2分


それは幻ではない――西見奈子『フロイトの灯 現代精神分析入門』
精神分析家によるフロイト理論の解説書。優しく丁寧だが足腰の強さを感じさせる語り口で、読むうちに段々と地響きのような蝉の声のような、姿なき者の声のようなものがズーンと響き、次第に大きくなってくる気がした。気のせいかと思ったが、それは気のせいではないことが終盤にさしかかるにつれ分かってくる。 *** 本書では、フロイトのヒステリー理論について、それがトラウマ(実際に生じた外傷体験)によるものであるとした初期理論(「誘惑理論」)とその放棄について語る。ヒステリー症状は女性が外傷体験を負ったから生じるのではなく、外傷体験を負ったことにして症状を出し心身を守ることを無意識が選んだのではないか、という理論的転換である。 その上で、誘惑理論を放棄したからこそ作り上げることのできたエディプスコンプレックスという考え方について論じられていくが、そこに一本通っているのは人間にとって性愛とは何か、という視点である。 *** 精神分析の性愛理論はあるところから急に受け付けなくなるところが私にはあって、エディプスコンプレックスについても、子による母親への愛と父親への

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6月18日読了時間: 5分


読書メモ:ウィニコット(1965/2022)『成熟過程と促進的環境』(大矢泰士訳)岩崎学術出版社
対象関係論のメラニー・クラインの後継者でありながら、それにとどまらず自らの理論を展開させていったウィニコットの論文集。「偽りの自己・本当の自己」「一人でいられる能力」などウィニコットの代表的理論を知ることができ、子どもの心理臨床を学ぶうえでは『遊ぶことと現実』等とともに必読であると思われます。 *** クラインとともに乳幼児期の心的発達の重要性を説いたものの、クラインほどには内界のファンタジーに依らず、タイトルにあるように「促進的環境」を重視したウィニコット。養育者に依存しながら漸進的に心理的自立が進むとウィニコットは考えますが、本書の白眉は以下の点にあると読みました。 イド衝動が有意義になるのは、それが自我生活の中に包容(コンテイン)されるときだけである、という点については一般的に同意を得られると思う。イド衝動は、弱い自我を混乱させ、強い自我を強化する。イド-関係は、自我-関係性の枠組みのなかでおこるとき、自我を強化する、と言える。もしこのことを受け容れるなら、一人でいられる能力の重要性も理解されるはずである。乳幼児が彼自身のパーソナルな生

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6月15日読了時間: 3分


大衆芸能(ポップカルチャー)としての歌舞伎の死――御名残五月大歌舞伎と大阪松竹座の閉館
大阪松竹座へ御名残五月大歌舞伎を見に行きました。昼の部と夜の部と一回ずつ。 ご存じの方も多いかと思いますが、大阪松竹座は5月26日をもって閉館となりました。その名残惜しさをこめた演目。 *** 私は歌舞伎には疎く、どちらかというと敬して遠ざけていたところがあったのですが、実際に見て、「なにこれすごい面白いじゃん!早く教えてよ!!」と言いたくなるような、大変楽しい体験でした。 演目は昼の部も夜の部も、時代物・世話物・所作事の3つ。時代物はサーカスのような派手な演出や身体能力に驚き、世話物では腹を抱えて笑い、所作事の美しさに見入る。『心中月夜星野屋』では舞台装置の美しさ第二幕の宵闇の橋!)にも本当に感じ入りました。 江戸の浮世絵(役者絵)の機能もよくわかって、私も思わずブロマイドを買って帰りました。見るたびに蘇る歌舞伎体験。 *** ところで、実際に歌舞伎を見に行ってわかったことがありました。松竹座の客、とにかくよく喋る!役者が出る度、家族関係を事細かに喋り、足拍子を鳴らせば「キレッキレや!」と大喜び。所作事では一緒に手を振る。ギャグのオチ

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6月1日読了時間: 3分


魔女、人間になる――映画『ハムネット』(ネタバレあり)
映画『ハムネット』 を見ました。 *** イギリスの田舎(ストラトフォード)に住む農家の娘がジェントリ階級の息子と結婚し、子どもが生まれる。夫は食い扶持を得るためにロンドンへ。残された母と長女、双子の次女・長男は父の帰りを楽しみに、草花に親しみながら暮らすのだが、一家を悲劇が襲う。子の一人が亡くなってしまうのだ。この悲劇がその後、家族に取らせた手段とはなにか。それが劇作家・シェイクスピアの作品「ハムレット」誕生につながる——。 主演女優のジェシー・バックリーがアカデミー賞を獲得したこともあり注目される本作ですが、家族のすれ違い・エディプス的葛藤と創造性の関係・母との分離・女性同士の連帯・ 演じることによる喪の作業 など様々なテーマが重層的に含まれる物語でした。 *** 中でも私が面白いなあと思ったのは、ジェシー・バックリー演ずるアグネス。鷹を操ったり薬草を得たり、村では”魔女の娘”と噂される存在です。アグネスの母も魔女と呼ばれており、おそらく出産にまつわる何かで命を失っています。アグネスは母のように魔女として振る舞い、母の言葉を復

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4月18日読了時間: 5分


誰にとっても人生は突然――映画『カーテンコールの灯(あかり)』
現在上映中の映画 『カーテンコールの灯』 は、打撃を受けた人生がどのように再生していくのかを丁寧に描いた作品です。 *** 建設作業員として働いている男性・ダンが主人公。彼は作業中に激昂してしまい、それをたまたま見かけた女性に声をかけられ、地域の小さな劇団に誘われます。一...

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2025年9月1日読了時間: 6分


訳書が刊行されました
3/13に、訳書が刊行されました。 ゲリー・L・ランドレス著『プレイセラピー 関係性の営み 原著第4版』(日本評論社) 、大学院時代の研究会仲間との共訳です。タイトルになっている“プレイセラピー”とは主に子どもを対象とした遊びによる心理療法のこと。...

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2025年3月14日読了時間: 4分


人の奥底にある温かいものへの信頼――映画『スクール・オブ・ロック』(ネタバレあり)
映画『スクール・オブ・ロック』を見ました。公開当時に見て以来ですので、およそ20年ぶりの鑑賞でしょうか。有名作品ですので、ご覧になった方も多いかと思います。とにかく楽しくて元気が出る映画、という記憶でしたが、果たしてそれはその通りでした。...

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2025年2月8日読了時間: 3分


ありがとう、さようなら
昨日で閉館となったシネマート心斎橋に行ってきました。最終日には行けなかったので、その前日に。 *** 最後は、イーニドソーダを飲みながら韓国映画『ノンストップ』を鑑賞するという、シネマートを凝縮!みたいな過ごし方を。 *** かってに復館を期待していた 旧テアトル梅田...

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2024年10月25日読了時間: 1分


「おもしろいからだと答える」
当オフィスで提供している心理療法の形態として、描画療法というものがあります。文字通り、絵を描くことによって心を癒やす方法です。何を描くのか、どのように描くのかは様々であり、描く人の必然性に応じて、それぞれの方法にたどり着くものです。 ***...

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2024年10月21日読了時間: 3分


言葉の力の光と影――映画『ビーイング・チャーリー』に見る、意志によるコントロールの不可能性について(ネタバレあり)
映画『ビーイング・チャーリー』は、『スタンド・バイ・ミー』のロブ・ライナーが監督した、ある青年の物語です。 *** 主人公はチャーリー、父は海賊役を得意にしていた俳優で、現在カリフォルニア州知事に立候補して選挙戦の真っ只中です。母はそのような父の活動に付き合いながら、どうも...

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2024年8月2日読了時間: 5分


小さな定住革命――雑草は抜かれなくてはいけないの?
このところ私が心奪われている、当オフィス卓上のエケベリアの鉢ですが、脇からなにかの草が生えてきました。この土は、植わっていた木が枯れたのでベランダに放置していた鉢から拝借したもの。ベランダに置いている間に、どこかから種が紛れ込んだのでしょうか。...

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2024年7月12日読了時間: 2分


亡霊は“亡”であり“霊”でなくてはならない――映画『ナイトメア・アリー』に見る心理療法のエッセンス(ネタバレあり)
(画像は20世紀フォックスDVD販売サイトより) 映画『ナイトメア・アリー』を見ました。ウィリアム・リンゼイ・グレシャムの小説『ナイトメア・アリー 悪夢小路』を原作とし、ギレルモ・デル・トロ監督が映画化した作品です。 ***...

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2024年4月15日読了時間: 4分


心は分裂しスウィングする――木ノ下歌舞伎『勧進帳』
先日、京都芸術劇場・春秋座で木ノ下歌舞伎『勧進帳』を観てきました。お芝居というか舞台芸術全般に疎いので、楽しめるかどうかと心配しましたが、なんのなんの、とても心動かされる貴重な体験となりました。 *** 『勧進帳』は歌舞伎の演目として有名ですが、今回観たのは、木ノ下歌舞伎主...

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2023年11月18日読了時間: 4分


我々は他ならぬ私-たちである
心の中を覗いたり、耕したりする方法の一つに、風景構成法と呼ばれるものがあります。このブログでも、何度か紹介したことがあります。 記事:カメラロールを眺めてみよう 記事:消えるものは消えるのか *** この風景構成法に関する本が誠信書房より出版されまして、私も一章、執筆しまし...

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2023年10月28日読了時間: 1分
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